【ジェリクル】独自のハイドロゲルを利用して多様な医薬品・医療機器を研究開発

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小間番号: B-92

ゲル構造を自在に操り、医療や工業用途などに応用するために設立されたバイオスタートアップ企業がジェリクルだ。ゲルの分解時間や網目サイズなどを完全にコントロールすることで、局所止血材や徐放性製剤、癒着防止材など、さまざまな用途に応用できるという。BioJapanでは、パイプラインの共同開発企業や、ライセンス契約企業を募集する。

あらゆる物性をコントロールできるテトラゲル

ゲルはゼリーなどでお馴染みだが、実は網目構造が不均一であり、意外と物性を制御する物理法則が解明されていない。そのため、ありふれた素材でありながら、ゲルの実際の挙動や機能を予測することが難しく、安定した性能が求められる医療用途には向かないと考えられていた。生体材料として実用化されているのはソフトコンタクトレンズくらいである。

しかし、東京大学の酒井崇匡教授が2008年に報告したテトラゲルが、この常識を一変させた。テトラゲルは、2種類の4分岐(テトラ)型ポリマーを組み合わせることで、均一な網目構造をもつゲルを作製できる。構造が均一であるため、数式を用いてあらゆる物性制御が可能になるという。学会では「歴史を変えたゲル」と評価されたほどだ。

どのような物性を制御できるか。たとえば、2種類のテトラゲル溶液を混合してから固体になるまでの時間を、数秒から数十分の間で調整でき、生分解時間も数週間から数か月まで調整可能。弾性率は、硝子体や筋肉といった軟組織に近い数値に対応でき、組織や臓器の動きにも追従できるという。

また、一般的なゲルは水中に数日放置すると膨潤してしまうため、体内への植込みには適さないとされている。しかし、テトラゲルは膨潤しないものも作ることができるため、体内に植え込んだときに周辺組織を圧迫してダメージを与えてしまうことを最小限に抑えられる。これにより、ゲルの体内使用の道も拓けた。

テトラゲルの医療応用

上記の性質を活かして、テトラゲルにはさまざまな医療応用が考えられている。たとえば、糸のように細長く加工し、硬さや延びの程度を調節すれば、生体適合性の高い縫合糸として使用できると考えられる。断面積が1平方センチメートルのゲル糸は、理論上1000キログラムを持ち上げることができるとのことだ。

また、酸性下では固化せず、中性になると固化する性質を活かして、出血した箇所にテトラゲルを当てて止血することもできる。こうした局所止血材は、すでに企業との共同開発が進んでいる。

ドラッグデリバリーシステム(DDS)としての利用も研究されている。マウスの皮膚潰瘍に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)をテトラゲルに封入し、患部で徐放することに成功している。同様にマウス実験において、成長因子を封入し、骨再生を促進したという報告も上がっている。これら以外にも、他の薬剤や他の部位における局注、徐放も可能だ。

再生医療の足場材としても多くの研究成果が挙がっており、細胞の生着や成長を促進する重要な役割が期待されている。医療用途以外にもテトラゲルの可能性を広げており、肥料兼土壌保水材として機能する高吸水性ポリマー(SAP)を農業残渣から作製できるとのことだ。

なお、すでに実用化されたものには、コスモ・バイオと共同開発した生体組織・細胞・試料の固定化材がある。数週間安定して細胞や組織の変化の観察に使用できる。

プラットフォーマーとして要望に応じた製品開発

ジェリクルでは自社でテトラゲルを生産・販売するのではなく、試作開発や応用研究にとどめ、東京大学などのアカデミックセンターとの共同研究から生まれた特許技術を顧客企業へライセンスアウトすることをビジネスモデルとしている。いわゆるプラットフォーマーとして振る舞うことで、複数の製品を同時に開発できる仕組みを構築している。

すでに国内外の企業と共同開発契約を締結しており、医療製品の薬事承認に向けて複数のプロジェクトが進行している。医療分野だけでなく、工業や農業分野においても共同研究が進んでいる。

パイプラインのステップごとに共同開発費を受領しているため、順調に売上が伸びている。直近のフェーズでは資金調達を行っておらず、5期連続で黒字を達成していることからも、経営状況は安定しているといってよいだろう。

無限の可能性を抱いているテトラゲル。生体適合性が高く革新的な素材を探索しているのであれば、検討の価値がありそうだ。

【企業・団体名】ジェリクル
【URL】https://gellycle.com
【展示会】BioJapan
【小間番号】B-92
【主な展示】医療製品への応用を想定したテトラゲル技術の紹介

取材・文:GH株式会社 島田

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