【花王】あぶら取りフィルム1枚からヒトのRNAを網羅的に解析する受託サービスを提供開始

花王

小間番号: B-23

皮膚は「体内の窓」ともよばれており、皮膚には、見た目の老化状態だけでなく身体のさまざまな状態が反映されている。皮膚に存在する生体分子の1つがmRNAであり、あぶら取りフィルムで皮脂を採取し、そこから抽出したRNAを網羅的に解析するのが花王独自の皮脂RNAモニタリング®技術である。BioJapanでは、2024年6月から開始した皮脂RNAモニタリング技術の受託分析サービスを紹介する。

皮脂に含まれる約1万種類のヒトmRNAを網羅的に解析

花王の皮脂RNAモニタリング技術は、あぶら取りフィルム1枚あれば皮脂中のRNAが採取できるという簡便で非侵襲的な方法が大きな特徴といえる。

RNAは細胞内でDNAから転写され作られる生体分子であり、細胞が置かれている環境によって産生量(発現量)が変化する。そのため、RNA発現の有無や量を調べることで、その時の身体の状態や疾患に至るまでさまざまな身体情報を得ることができる。

以前から皮膚には皮膚だけではなく、身体の状態を反映するRNAが含まれていることは分かっていたものの、RNAを採取するには外科的な処置が必要となる。もし、身体を傷つけることなく皮膚のRNAを採取して解析できればRNA解析におけるハードルは大きく下がり、応用が一気に広がる可能性を秘めている。

花王が着目したのが皮膚内に存在する「皮脂腺」という皮脂を産生、分泌する器官だ。皮脂腺細胞は分化の過程で細胞内に脂質を作り、蓄え、最終的に細胞膜が崩壊して細胞内の全成分を放出する「全分泌」という分泌方式をとる。全分泌によって放出された脂質が皮膚に付着したものが皮脂である。

花王では、化粧品素材を開発する過程で皮脂腺の全分泌に着目し、「全分泌によって細胞内の全成分が放出されて皮脂になるのであれば、皮脂の中にヒトに由来するRNAも含まれているのではないか」と考えた。この仮説のもと、ヒトの皮脂を解析したところ、分析可能なヒトmRNAの存在が確認できた。

一方で皮脂中のヒトmRNAは微量だったためmRNAを網羅的に解析するための条件検討を重ね、最終的に皮脂中に存在する約1万種類のmRNAを次世代シーケンサーで解析する、独自の高感度解析技術を構築した。皮脂をあぶら取りフィルムで安定的に採取する方法と組み合わせ、皮脂RNAモニタリング技術の開発に成功した。

乳幼児アトピー性皮膚炎や神経変性疾患への応用の可能性

皮脂RNAモニタリング技術は外科的な皮膚採取を必要とせず、あぶら取りフィルム1枚だけで簡便にRNAを採取できるため、成人はもちろんのこと、これまで生体サンプルの採取が難しかった乳幼児での活用も期待できる。

すでに大学や企業との共同研究が進んでおり、その一例に乳幼児アトピー性皮膚炎への応用がある。乳幼児期の早期に発症するアトピー性皮膚炎は他のアレルギー疾患の発症のリスクとなることが知られており、早期の発見と治療が重要とされている。その一方で、他の発疹との判別に時間がかかり、診断が遅れがちという課題がある。

これまでの皮脂RNA解析から、アトピー性皮膚炎を発症した乳幼児では皮膚バリア機能や免疫応答に関連する多くの遺伝子発現が健常皮膚の乳幼児とは異なることがわかった。さらに、一部の遺伝子に関してはアトピー性皮膚炎の重症度と相関することも明らかになっている。これにより、皮脂RNAは、アトピー性皮膚炎に関連する遺伝子発現の特徴を把握するだけでなく、バイオマーカーの探索・同定にも活用できる可能性が示された。

また皮膚疾患以外にも応用できる可能性があるという。進行性の神経変性疾患であるパーキンソン病患者の皮脂RNAでは、ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関連する遺伝子群の発現変動が確認されている。さらに、皮脂RNAの遺伝子発現情報を機械学習で解析することで、皮脂RNAからパーキンソン病を精度よく判別できることも示唆された。

皮脂RNAモニタリング技術による研究の深化への貢献

花王は、皮脂RNAモニタリング技術をオープンにして受託分析サービスとして提供を開始した。この技術を広く利活用していただくことで、皮膚科学、健康科学、医療をはじめとするさまざまな研究領域の深化に貢献したいと考えている。BioJapanでは、潜在的なユーザーとの接点を広げ、皮脂RNAモニタリング技術の社会的有用性を高めていきたい。

【企業・団体名】花王
【URL】https://www.kao.co.jp/skin_surface_lipids_rna/
【展示会】BioJapan
【小間番号】B-23
【主な展示】皮脂RNAモニタリング技術の紹介

取材・文:GH株式会社 島田

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