【理化学研究所】創薬を加速・高質化させる理研内外との連携体制、社会実装を目指す研究シーズを紹介

理化学研究所

小間番号: D-62

理化学研究所(理研)は研究成果の社会実装に向け、製薬企業やバイオテック企業などと積極的に協働している。BioJapanでは、創薬研究における基本戦略や研究シーズを紹介する。また、10月9日に開催されるセミナーでは、理研の研究者によるライフサイエンス分野の最先端の研究紹介や、AIやロボティクスを活用した新たな創薬手法について議論が交わされる予定だ。

標的と技術を掛け合わせた創薬基盤を構築する

理研が2010年に開始したのが創薬・医療技術基盤プログラム(DMP)。このプログラムでは、理研内外の最先端の研究シーズを、理研のライフサイエンス分野で培われた研究基盤を活用し育成し、その成果を実用化することを目指している。医療ニーズを鑑みながら研究シーズをステージアップさせ、企業や医療機関に橋渡しするという位置付けの事業だ。

DMPの目指す創薬では、新たな創薬標的(ターゲット)と新しい創薬技術(モダリティ)を掛け合わせる。こうして、既存の治療薬や治療方法では対応できなかった医療ニーズを満たすという戦略だ。

創薬標的では、希少疾患や免疫、中枢疾患など、アプローチが難しく治療満足度が低い疾患に焦点をあて、これらの疾患の発症機序の解明に関する基礎研究の知見を活用し新規性の高い標的を抽出する。創薬技術については、低分子、抗体、細胞治療や再生医療といったこれまでに蓄積した技術の強化に加え、理研の独自性を活かせる新たなモダリティ技術を発展させる。

当然ながら、こうした取り組みは一つの分野の研究だけでは不可能で、複数の分野間の連携が欠かせない。そこで理研が2022年度に打ち出したのがTRIP(Transformative Research Innovation Platform of RIKEN platforms)構想だ。基礎科学の多様な分野の優れた研究者たちと研究プラットフォーム群を有機的に連携させ「つなぐ科学」を推進することで、画期的な研究成果の創出や社会課題の解決を目指すという。創薬においても、ヒトゲノム解析やオルガノイド・疾患iPS細胞・遺伝子改変動物といった理研が蓄積してきた先端的バイオリソースなどを活用して創薬標的の探索や機能検証を行うとともに、外部とも連携して創薬技術の強化を行い、画期的な創薬シーズを連続的に創出することで“創薬標的の枯渇”に応えられる新たな創薬基盤の構築に挑む。

研究シーズをブースで展示

展示ブースでは、上記のDMPの創薬戦略や理研の先端的研究基盤だけでなく、創薬への活用が期待される具体的な研究シーズも紹介する。例えば、以下の研究シーズが紹介される。

●低分子化合物とペプチドを複合化した医薬品

標的特異性が低い低分子をペプチドライブラリーに組み込み、ペプチド由来の標的特異性と医薬品由来の薬効を持ち合わせた中分子医薬品を開発できる技術。リポソームディスプレイ法を用いるもので、全自動スクリーニング装置がすでに構築されており、短い時間でスクリーニングが実行できるという。標的を認識する蛍光ペプチドアプタマーのスクリーニングも可能であり、検査薬の開発にも活用できると見込んでいる。

●間葉系幹細胞のクラスタリングと機能的な細胞亜集団の特定

幹細胞などを用いる細胞治療が注目されているが、製法変更があった場合でも細胞の品質が一定に保たれているか等、それを正確に評価する一定の基準を保有することが大切な課題となっている。今回、ヒト間葉系幹細胞に対してシングルセルRNA-Seq解析を行ったところ、ロットによる不均一性が明らかになっただけでなく、血管新生や免疫抑制に寄与する細胞亜集団を同定し、マーカー遺伝子も抽出できたという。これらの技術や知見は、再生医療における幹細胞のスクリーニングや、生物製剤医薬の開発に応用できるとしている。

●心臓の健康指標としての「レントゲン年齢」の活用

AIを用いて、胸部レントゲン画像から、実年齢評価のみならず、さまざまな疾患、特に心疾患リスクを評価できる「レントゲン年齢」との概念を創出したというもの。多くの人が検診などで胸部レントゲン写真を撮るが、読影には専門的な知識が要求されるという課題がある。AIを用いることで、心疾患リスクの大きさに比例して実年齢と乖離するレントゲン年齢を推定する。すでに、レントゲン年齢から心不全患者の悪化の層別化ができることが示されており、他の疾患発症リスクを予測できる可能性もあるとしている。健康意識の変化や啓蒙にも活用できそうだ。

他にも展示ブースでは、以下の研究シーズをポスターで掲示し、担当者の説明も予定している。

●GALDAR-1/2, 3 非侵襲的1細胞レベル糖代謝バイオセンサー

●ゲノム編集による遺伝子改変動物の作製

●蛍光標識した内在性4型コラーゲンを発現する新規遺伝子改変マウス

●日本人に最適化された心血管遺伝的リスクスコアによる疾患予防

●日本人の前立腺がん患者の病的バリアントと早期発見への利用

●イヌの遅発性運動失調症の発症リスク診断方法

セミナーでは変化する創薬環境や理研におけるTRIP構想を活用した創薬研究を議論

会期1日目となる10月9日(水)にはスポンサーセミナーを開催し、国内の創薬に関連する科学技術研究の政策や環境変化、理研におけるTRIP事業、ライフサイエンス領域で進めている最先端研究、来年度から始まる理研の第5期中長期計画での活動方向性が紹介される。これらの研究を活用して創薬が今後どのように変化するのか、活発な議論に期待したい。

【企業・団体名】理化学研究所
【URL】https://www.riken.jp
【展示会】BioJapan
【小間番号】D-62
【主な展示】創薬を目的とした各プログラムや研究シーズの紹介
【スポンサーセミナー】10月9日(水)15:00-17:00 F205
【セミナープログラム】
1) ライフサイエンス政策の直近の動向と創薬への貢献について
  釜井 宏行 (文部科学省・研究振興局ライフサイエンス課・課長)
2) AMEDにおけるアカデミア創薬支援と理研への期待
  日下部 哲也 (日本医療研究開発機構(AMED)・創薬事業部・部長)
3) 理化学研究所における先端研究と創薬による日本の成長機会の創製
  宮園 浩平 (理化学研究所・理事)
4) AIは創薬を変革できるのか
  奥野 恭史 (理化学研究所・計算科学研究センター(R-CCS)・
  HPC/AI駆動型医薬プラットフォーム部門・部門長)
5) ロボティック・バイオロジーによる生命科学の加速
  高橋 恒一(理化学研究所・生命機能科学研究センター(BDR)
  バイオコンピューティング研究チーム・チームリーダー)
6) 理研BDRオルガノイドプロジェクト 〜基礎から社会実装までのパイプライン構想〜
  髙里 実 (理化学研究所・生命機能科学研究センター (BDR)
  ヒト器官形成研究チーム・チームリーダー)
7) 「脳神経科学統合プログラム」による脳メカニズムの解明と新規治療・診断法の創出
  (1) 「脳神経科学統合プログラム」の概要紹介
    上口 裕之 (理化学研究所・脳神経科学研究センター (CBS)・副センター)
  (2)統合的アプローチによる精神・神経疾患のゲノム研究
    髙田 篤 (理化学研究所・脳神経科学研究センター (CBS)
    分子精神病理研究チーム・チームリーダー)
  (3)マーモセット脳アトラスを活用したヒト脳内遺伝子発現のデジタル予測
    下郡 智美 (理化学研究所・脳神経科学研究センター (CBS)・副センター長)

(参考情報)
<理研リリース「理事長から皆様へ」>
https://www.riken.jp/about/president/index.html
<TRIP事業本部のHP>
https://trip.riken.jp/
<理研創薬・医療技術基盤プログラム(DMP)のHP>
https://www2.riken.jp/dmp/

取材・文:GH株式会社 島田

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