小間番号: D-52
希少疾患の医薬品開発をデータドリブン創薬で実現する——この目標を掲げて2018年に設立されたのがジェクスヴァル社(GEXVal)だ。
希少疾患は国によって定義は異なるが、日本では発生頻度が1万人あたり4人未満、国内で患者数が5万人未満の疾患を指す。希少疾患は7,000種類以上あり、約4億人の患者がいるとされているが、そのうち治療薬が存在するのは10%にも満たず、高額な治療法も多い。ジェクスヴァルは人工知能(AI)を含むファーマコインフォマティクスを活用し、製薬企業などに眠る新規の医薬品候補物質を掘り出して希少疾患の治療に向けた研究開発および初期臨床試験を行っている。
創業者である代表取締役の加藤珠蘭氏は、もともと製薬企業でがん創薬やドラッグリパーパシング研究を行ってきたが、希少疾患の患者会が主催する国際学会に参加したときに、「患者に薬を届けることの本当の意味がわかっていなかった」ことに気づいたという。製薬企業には希少疾患の治療薬になり得るリード化合物が眠っているものの、経営判断で開発が進まないことが珍しくない。「創薬におけるイノベーションとは高価なものを作ることではなく、必要とするすべての人に必要な薬を届けること」、希少疾患の患者に薬を届けたいという想いで職場の仲間とジェクスヴァルの創業に至った。
ジェクスヴァルでの希少疾患向け医薬品開発は主にドラッグリパーパシングの技法を用いている。ドラッグリパーパシングでは、実験データや医薬品候補化合物の作用などをAIを活用しながら解析し、データドリブンに希少疾患との隠れた関係性を発見する。そして、製薬企業などが有する化合物ライブラリの中から希少疾患の治療薬候補化合物を抽出し、製品戦略・開発戦略を策定し、それにもとづき非臨床試験や臨床第I相から第II相までの初期臨床開発を行う。
ドラッグリパーパシングによって、通常の創薬プロセスよりも成功確率が高く、開発期間やコストを抑制でき、より多くの希少疾患患者にスピーディーに治療薬を届けられるとするのがジェクスヴァルの考えだ。加藤氏は、「近年、米国での承認薬のおよそ半分が希少疾患の治療薬となっていますが、高額な遺伝子治療も含まれています。私たちは、薬を必要とするみなさんに迅速に治療薬を届けることを重視しています」と話す。
ジェクスヴァルのデータドリブン創薬を支えているのが、独自に開発したRePhaIND®というAIプラットフォームだ。RePhaIND®は、グラフニューラルネットワークの一種であるgraph attention autoencoder(GATE)を用いて特徴量を解像度高く分析することができ、大規模言語モデル(LLM)、リアルワールドデータ解析などとも組み合わせて医薬品候補物質と希少疾患との関連性を抽出できるという。
このようにAIを活用して発掘した化合物の一つがGXV-001だ。GXV-001は、日本では指定難病206に指定されている発達障害「脆弱X症候群」を対象とした医薬品として、臨床開発が始まっている。前臨床研究が行われ、オーストラリアで実施された第I相臨床試験では安全性と忍容性、proof of mechanism(薬が標的を捉え、薬理作用があることの証明)が確認された。オーストラリアで第I相臨床試験を実施した理由として、対象疾患の詳細な診療や臨床試験が豊富に行われてきた実績があり、今後の患者でのグローバル開発に向けた環境が整っていることに加えて、国として臨床開発に対する経済的な助成制度があったことを挙げる。
2024年には日本医療研究開発機構(AMED)の令和6年度「創薬ベンチャーエコシステム強化事業(創薬ベンチャー公募)」に採択され、これをもとに欧州を中心とした第II相臨床試験の準備を進めている。
GXV-001は、脆弱X症候群だけでなく、レット症候群、せん妄、認知症や、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)などの関連疾患も開発対象疾患として検討しているという。加藤氏は、「米国の患者団体の支援で、対象疾患の動物モデルを使ってGXV-001の作用を調べていく中で、様々な疾患に共通する病態メカニズムへの薬理作用が見えてきました。希少疾患とせん妄という、一見はなれた疾患に対して共通の分子メカニズムでアプローチできないか、2種類の疾患に対して共通の薬剤の開発の検討を同時に進めているのがジェクスヴァルの特徴だと思います」と話す。
他にも、パーキンソン病、心循環器系疾患、皮膚科疾患など複数の開発候補パイプラインが走っているとのことだ。
ジェクスヴァルが想定するビジネスモデルは次のとおりだ。ジェクスヴァルでは開発シーズの発掘と開発パッケージの準備、初期臨床開発までを行い、その後の第III相臨床試験や承認申請、商業化は別の製薬企業にバトンタッチする。ジェクスヴァルは製薬企業とのライセンス契約によって収入を得る。
BioJapanでは、GXV-001に関しては後期臨床開発を担うグローバルパートナーを見つけたいとしている。また、創薬分野において最新のAI技術であるGraph Attention Autoencoder(GATE)技術を先駆的に応用した独自の次世代創薬プラットフォームを活用したデータドリブン創薬研究のノウハウを共有し、研究開発型の企業とのマッチングも希望する。会期3日目には Presentation Stage Cにてオーストラリアでの臨床開発についてプレゼンテーションを実施し、初期臨床開発における学びを共有する。パネルディスカッションでは、オーストラリアの創薬エコシステムをリードするCDMO、Ph1ユニット、臨床開発CROを招聘して、実務における課題を掘り下げる。希少疾患の治療薬開発や海外での初期臨床開発に関心のある製薬企業はぜひ注目していただきたい。
【企業・団体名】株式会社ジェクスヴァル
【URL】https://gexval.com/
【展示会】BioJapan
【小間番号】D-52
【主な展示】AIを活用したデータドリブン創薬とリード開発パイプラインGXV-001
【セミナー】10月10日(金)14:25 ~ 14:55 Presentation Stage C「オーストラリア臨床開発の戦略的活用:付加価値を最大化する初期開発アプローチ(ゼロから始めるオーストラリア臨床開発」
同日15:35 ~ 16:05「オーストラリア臨床開発の戦略的活用:付加価値を最大化する初期開発アプローチ(オーストラリア臨床開発とその後の展開)」