小間番号: D-61
アカデミアやスタートアップ企業が有する創薬シーズをいかに掘り起こし、製薬企業の導入につなげるかが大きな課題となっている現在、橋渡し研究の重要性が増している。
国立がん研究センターは2021年、大学以外では初めて「橋渡し研究支援機関」として文部科学大臣によって認定された。それに先立ち開設された国立がん研究センター橋渡し研究推進センター(CPOT)や、同年から開始した国立がん研究センター Venture IncubationProgram(NCC-VIP)、また2024年から開始した国立がん研究センターSeed Acceleration Program(NCC SAP)などの取り組みを通じて、センター内外を問わず橋渡し研究やスタートアップエコシステム構築を支援している。
昨今、医薬品開発の主流はバイオ医薬品や再生医療等製品となっている。それに伴い、アカデミアやスタートアップ企業がシーズの早期開発を行い、製薬企業はそれらを導入して自社リソースを開発後期に集中するオープンイノベーションへのシフトが進んでいる。
がん領域の治療薬や診断薬、医療機器開発においてもオープンイノベーションの流れは例外ではない。特定の遺伝子変異に対応する治療薬が1種類あればいいのではなく、がん細胞や腫瘍微小環境の両方をターゲットにしたり、複数のモダリティを組み合わせたりする治療法の開発、いわばマルチモーダル開発も求められている。マルチモーダル開発を前提とする医薬品開発エコシステムの実現には、ゴールを見据えた異分野融合が欠かせない。
国立がん研究センターでは、異分野融合によるがん治療の新規ターゲット探索やモダリティ開発の必要性を認識しており、それらを支援する部門として2021年に開設されたのがCPOTだ。CPOTセンター長である土原一哉氏は、「新しい技術を組み合わせることで、より幅広いがん患者に対して有効性が高く、安全な治療法を開発できると考える。そのためには、さまざまなプレイヤーが交わる世界を作ることが必要だ」と話す。
CPOTで意識していることが「バックキャスト型シーズ開発」だ。シーズがもつ科学的な強みを生かしつつ、臨床試験実現の可能性や製造上の課題、承認後の市場といった事業性を考慮した出口戦略を立案してから研究開発や製造プロセスを計画するバックキャスティング(望ましい未来像からの逆算)戦略をとっている。国立がん研究センターでは東病院と中央病院、研究所、先端医療開発センターなどによる橋渡し研究をセンター内で長年行っており、困難を乗り越えるための出口戦略のノウハウが蓄積されていることが大きな特徴だ。
橋渡し研究プログラムでは、開発フェーズ(基礎研究、応用研究、非臨床研究、臨床研究・治験)に即した募集を実施している。土原センター長は、「基礎研究のアイデアを含め、日本中から多く募集している。独自性や新規性の高いシーズは、ぜひ私たちCPOTで支援させていただきたい」と呼びかける。
CPOTのプロジェクトマネージャーの心構えに、「悩める孤独な研究者の客観的で前向きな伴走者であれ」を掲げている。シーズの魅力で「人をワクワクさせたい」思いを大切に、研究者に寄り添うとしており、孤軍奮闘になりがちな研究者にとって心強いといえるだろう。
国立がん研究センターでは、がん関連領域のスタートアップ企業の支援も行っている。2021年に立ち上がった国立がん研究センターVenture Incubation Program(NCC VIP)は第3期までに延べ19チームが採択され、14チームが新規資金調達に成功2チームがfirst in humanの治験を開始するなどの成果を上げてきた。また、国立がん研究センター発のスタートアップに対するベンチャー認定制度では現在までに6社が認定され、2社がIPOまたはM&Aによるイグジットを達成している。
2024年には、日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究プログラム(大学発医療系スタートアップ支援プログラム)に「サイエンスでがん医療の未来を創造する大学発医療系スタートアップ支援拠点」が採択されたことを受け、新たに国立がん研究センターSeed Acceleration Program(NCC SAP)が開始した。
NCC SAPでは、NCC VIPで取り組んできたことに加え、日本型カンパニークリエーションモデルの構築などの体制整備を目的としている。カンパニークリエーションとは、ベンチャーキャピタル自らがアンメットメディカルニーズを特定してスタートアップ企業を設立する取り組みであり、NCC SAPでも国立がん研究センターがアンメットメディカルニーズを特定し、それ基づくシーズ公募を行う取り組みを開始している。国立がん研究センターがもつ国内外の研究者ネットワークや伴走支援、協力機関のインキュベーションラボを活用できる。また、米国インキュベーターであるTexas Medical Center(TMC)との連携により、海外メンターによる人材育成をはじめ、米国での起業及び資金調達、現地人材雇用を支援することがNCC SAPの特色だ。
国立がん研究センターはBioJapanにおいて、有望なシーズをもつアカデミアやスタートアップ企業のみならず、臨床試験に必要な薬を製造できるCDMOとの対話を希望している。毎年、多くの商談が行われるため、早めのアポイント申請がよさそうだ。
土原センター長は、「CPOTが開設されて4年以上経ち、多くの研究者やスタートアップ企業が集まってきました。当センターだけでできることには限界があるため、学際的に多くの人が集まることが改めて重要であると認識している。加えて、オープンイノベーションを推進するため、研究をサポートする人材も不可欠であり、こうした取り組みに関心のある人もぜひ声をかけてほしい」と呼びかける。
【企業・団体名】国立研究開発法人国立がん研究センター
【URL】https://cpot.ncc.go.jp/
【展示会】BioJapan
【小間番号】D-61
【主な展示】橋渡し研究推進センター(CPOT)、国立がん研究センターSeed Acceleration Programの紹介