小間番号: D-17
ウイルスによるがん治療はオンコリティックバイロセラピー(Oncolytic Virotherapy)とよばれており、そこで用いられるウイルスが腫瘍溶解性ウイルスだ。がん治療の三本柱である外科手術、化学療法、放射線療法に加え、免疫チェックポイント阻害療法を第4世代、CAR-T療法などの細胞・遺伝子治療を第5世代とするなら、腫瘍溶解性ウイルスは第6世代のがん治療法として期待されている。
アールバイロジェン社は東京大学との独占ライセンス契約により腫瘍溶解性ウイルス「パネクチン(Panectin®)」の研究開発を行なっており、現在は医師主導の第I相治験が進行中である。BioJapanでは第II相企業治験に向けた支援や共同研究を呼びかける。
パネクチン(Panectin®)は、正常な細胞にはまったく感染せず、がん細胞のみに感染して増殖することでがん細胞を特異的に破壊する腫瘍溶解性ウイルスのことだ。アールバイロジェンの代表取締役社長である石垣夢作氏は、「がん細胞内でウイルスが増殖するため連鎖的にがん細胞を攻撃できる点が、分子標的薬や抗体医薬品にはない特徴だ」と、腫瘍溶解性ウイルスの利点を述べる。また、腫瘍周囲に免疫細胞を呼び寄せる作用もあり、免疫チェックポイント阻害剤などとの相乗効果も期待されている。
国内外で腫瘍溶解性ウイルスの製品化を目指す研究開発が進んでおり、どのウイルスをベースにして遺伝子改変するか、どのがん種をターゲットにするか、各社で戦略が分かれている。
アールバイロジェンでは、東京大学の甲斐知惠子名誉教授が開発した腫瘍溶解性ウイルスを用いて、東京大学との独占ライセンス契約のもと研究開発を進めている。甲斐名誉教授がRNAウイルスの研究を進める中でRNAウイルスの遺伝子を改変する技術を開発していた際、麻疹ウイルス野外株が「Nectin-4」という癌細胞表面で高発現するタンパク質を標的として感染し、がん細胞の増殖を抑えて死滅させることを発見。これを機に、麻疹ウイルス野外株に遺伝子改変を加えて免疫細胞表面のレセプター「SLAM」に結合できないようにした腫瘍溶解性ウイルス「Panectin®」が開発された。これにより、免疫細胞に感染できず元の麻疹の病原性が完全に消失した一方で、もう1つのレセプターNectin-4を発現するがん細胞だけに特異的に感染して腫瘍を溶解する。ちなみにNectin-4は、胚および胎盤で発現するが成人ではほとんど発現せず、腫瘍ではステージが進むほど発現量が増えるため、がんの予後不良に関わっていると考えられている。
アールバイロジェンが研究開発を進めている腫瘍溶解性ウイルス「Panectin®」の非臨床試験では、Nectin-4陽性の乳がん、トリプルネガティブ乳がん、肺がん、大腸がん、膵臓がんという幅広いがん種において腫瘍の成長を著しく抑制するデータが得られている。一方で正常組織ではまったくウイルスが検出されなかったなど、腫瘍選択性が極めて高いことも示されている。
Panectin®は現在、医師主導の第I相治験が進行中だ。ウイルスは1週間に1回、合計3〜6回腫瘍内に直接投与する。将来的には静脈内投与も検討しており、他の腫瘍溶解性ウイルスの場合、1回目の投与でウイルスに対する抗体が著しく上がってしまうため2回目以降は効果が弱くなる傾向があるが、Panectin®のベースとなっている麻疹ウイルスは抗体値の上昇が限定的であり、静脈注射の反復投与が可能だと考えられている。石垣社長は、「これは腫瘍溶解性ウイルスの中でもPanectin®のみの特徴だ」と独自性をアピールする。
臨床試験と並行して、企業治験薬の中スケール製造法も確立済みとのこと。石垣社長は、「GMP製造の完了後、日米で免疫チェックポイント阻害薬と併用する企業治験の実施を計画している」と、今後の展望を述べる。
現在計画するターゲット疾患はトリプルネガティブ乳がんのステージ4と、筋層非浸潤性膀胱がんの2つ。特にトリプルネガティブ乳がんはアンメットニーズが存在し、患者数が比較的多く、患者の選別が容易であること、奏功判定までの期間が短いなどの特徴からターゲットに選んだという。日米での市場展開を目指し、ピーク時売上は420億円を見込んでいる。また、乳がんの全てのタイプとステージで承認されれば、ピーク時売上は1兆3,000億円にもなるという。さらに石垣社長は、「Panectin®はNectin-4陽性腫瘍に幅広く有効であることが示されれば、さらに適用範囲と売上は拡大するであろう」と意気込む。
BioJapanでは、第II相企業治験に向けた支援や共同研究などを呼びかけたいとしている。また、石垣社長は、「海外での治験を検討しているため、コンサルタントやCROから規制対応などに関する情報があれば提供いただきたい」とも話しており、日本発の腫瘍溶解性ウイルスの適用拡大や海外展開などに期待を寄せている来場者はぜひブースを訪れてほしい。
【企業・団体名】アールバイロジェン株式会社
【URL】https://www.rvirogen.com/
【展示会】BioJapan
【小間番号】D-17
【主な展示】麻疹ウイルス野外株に遺伝子改変を加えた腫瘍溶解性ウイルスによるがん治療